キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や待遇改善を支援する厚生労働省管轄の制度です。
人手不足や人材定着に悩む企業にとって、制度活用は人件費負担を抑えつつ組織力を高める有効な手段となります。本記事では、令和7年度版の支給要件や申請手順、最新の改定点までわかりやすく解説します。
キャリアアップ助成金とは?厚生労働省が管轄する制度の仕組みを解説
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善に取り組む事業主を支援する制度で、厚生労働省が所管しています。
企業が人材の定着や生産性向上を図る際の一助となるよう、各種コースごとに条件を満たすことで助成金が支給される仕組みです。
正社員化、賃金規定の改定、賞与や退職金制度の導入など、労働条件を整備するさまざまな取り組みが対象となります。
なお、助成金の財源は雇用保険料の一部で構成されており、雇用保険適用事業所であることが基本要件です。制度の趣旨や要件は年度によって見直されるため、常に最新情報を確認することが重要です。
【令和7年版】キャリアアップ助成金のコース別支給金額早見表
各コースには支給対象や金額が異なるため、事前に比較・把握しておくことが重要です。令和7年度の最新情報に基づいた支給額の目安を表形式でまとめています。
【令和7年版】キャリアアップ助成金のコース別支給金額早見表
コース名 | 主な対象 | 中小企業 | 大企業 |
---|---|---|---|
正社員化コース(有期→正社員) | 有期→正社員(重点支援対象者) | 最大80万円/人 | 最大60万円/人 |
正社員化コース(無期→正社員) | 無期→正社員(通常) | 20万円/人 | 15万円/人 |
賃金規定等改定コース | 基本給3%以上の賃上げ | 最大7万円/人 | 最大4.6万円/人 |
賃金規程等共通化コース | 正規・非正規共通の賃金制度導入 | 60万円/事業所 | 45万円/事業所 |
賞与退職金制度導入コース | 賞与または退職金制度の新設 | 40万円/事業所 | 30万円/事業所 |
選択的適用拡大導入時処遇改善コース | 社会保険適用拡大+処遇改善 | 最大50万円/事業所 | 最大37.5万円/事業所 |
短時間労働者労働時間延長コース | 週20時間未満→20時間以上に延長 | 詳細は別途発表 | 詳細は別途発表 |
障害者正社員化コース | 障害のある非正規雇用者を正社員へ転換 | 最大100万円/人 | 最大70万円/人 |
【令和7年版】キャリアアップ助成金のコース概要と申請条件
キャリアアップ助成金には、正社員化や賃金制度の整備など、7つの主要コースがあります。支給対象や必要条件をコースごとにわかりやすく解説します。
正社員化コースの概要と申請条件
正社員化コースは、有期雇用や無期雇用、または派遣労働者を正社員に転換または直接雇用した場合に助成されるコースです。
対象者の雇用形態や条件によって支給額が異なり、たとえば中小企業で有期から正社員に転換した場合、重点支援対象者であれば80万円の支給が可能です。
申請には、転換制度を定めた就業規則の整備、転換後の継続雇用6ヶ月以上、基本給の3%以上増額、賞与や退職金制度の適用などが求められます。
また、対象者が当初から正社員登用前提で採用された者でないことも条件の一つです。実施前に計画書を提出する必要があるため、事前準備が非常に重要です。
賃金規定等改定コースの概要と申請条件
賃金規定等改定コースは、非正規雇用労働者の基本給を3%以上引き上げるよう賃金規定を改定し、その規定を実際に適用した場合に支給されるコースです。
支給額は賃上げ率に応じて段階的に設定されており、中小企業の場合、最大で7万円/人、大企業では最大4.6万円/人が支給されます。
また、職務評価手法の導入や昇給制度の新設により、1事業所あたり最大20万円の加算も可能です。注意点として、実質的な賃金増加が確認できるよう、賃金台帳や就業規則などの書類整備が求められます。
計画書提出前に賃上げを実施した場合は対象外となるため、必ず事前手続を済ませておく必要があります。
賃金規程等共通化コースの概要と申請条件
賃金規程等共通化コースは、正社員と非正規社員の間に共通の賃金規程を導入し、非正規社員にもその規程を適用した場合に助成される制度です。
支給額は中小企業で60万円、大企業で45万円と、事業所単位での定額支給となっています。
申請には、全ての非正規社員に共通規程が適用されていること、共通化によって実質的な待遇改善がなされていることが必要です。
また、労使合意を得た上で就業規則を改定することも前提となります。共通化により基本給の底上げや評価制度の公平性が向上するなど、社内制度の見直しにも繋がる制度です。
賞与退職金制度導入コースの概要と申請条件
賞与退職金制度導入コースは、有期契約やパートタイム労働者などに対し、新たに賞与または退職金制度を導入した事業主に支給される制度です。
中小企業で40万円、大企業で30万円の定額支給となります。導入にあたっては、該当する制度を明文化した就業規則の整備と、実際に支給または積立ての実施が求められます。
対象はすべての非正規労働者であり、一部の従業員に限定した制度では助成の対象外です。
制度導入は事業所全体の待遇改善に寄与するもので、非正規社員のモチベーション向上や人材定着にも効果が期待されます。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの概要と申請条件
選択的適用拡大導入時処遇改善コースは、短時間労働者の社会保険適用に伴い、その処遇を改善した企業に対して支給されるコースです。
たとえば労働時間の延長や、手当の新設、賃金引上げなどが対象となります。中小企業では最大50万円、大企業では37.5万円の支給が可能です。
申請条件としては、対象となる短時間労働者が社会保険の被保険者資格を新たに取得していること、さらに改善内容が制度的に明文化されていることが必要です。
また、社会保険加入に関連する処遇改善が明確に確認できる証拠書類の提出も求められます。労働時間の延長のみを実施した場合は、助成額が縮小される点にも留意が必要です。
短時間労働者労働時間延長コースの概要と申請条件
短時間労働者労働時間延長コースは、週の所定労働時間が20時間未満の労働者について、労働時間を延長し、継続的に20時間以上の就労が可能な体制にした企業に対し、助成を行う新設コースです。
令和7年から独立したコースとして設けられ、制度導入による社会保険適用拡大や、働き方の多様化対応を目的としています。
申請にあたっては、該当する短時間労働者の労働条件通知書や就業規則の変更、延長後の労働実績の記録が必要です。
支給額や加算条件については今後発表される詳細要領に基づいて判断されますが、これまでの適用時処遇改善コースと同様の仕組みが想定されています。
障害者正社員化コースの概要と申請条件
障害者正社員化コースは、障害のある非正規雇用労働者を正社員として転換または直接雇用した事業主に対して支給される特別なコースです。
対象となる労働者の雇用実態や職務内容に応じて、一般の正社員化コースよりも高い支給額が設定されていることが特徴です。
申請には、就業規則上の転換制度の整備や、継続的な雇用期間、処遇改善措置の実施、障害者雇用に適した職場環境の整備が求められます。
なお、障害者雇用に関する他の助成制度との併用可否については、必ず労働局へ事前相談が必要です。
令和7年度のキャリアアップ助成金の主な改定内容
令和7年度は、重点支援対象者の定義変更や新コースの独立化など、大幅な見直しが実施されました。企業が押さえておくべき主な改定点を整理します。
正社員化コースと障害者正社員化コースの支給要件再編
令和7年度の改定では、正社員化コースおよび障害者正社員化コースにおける支給対象者の区分が再編されました。特に「重点支援対象者」の定義が明確化され、支給額の加算条件が整理された点が特徴です。
たとえば、長期有期雇用者や正社員歴が一定期間ない労働者、派遣からの直接雇用者などが重点対象とされ、これに該当する場合の支給額が引き上げられています。
また、要件の厳格化により、正社員化後の処遇要件や在籍期間、制度導入の有無などがより重視されるようになりました。
申請を検討する企業は、これらの要件変更を踏まえて、事前の制度整備や文書管理の強化が求められます。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの重点強化と支給額見直し
短時間労働者の社会保険適用拡大に伴う処遇改善を支援する「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」では、令和7年度から重点的な強化が図られました。
これにより、賃金アップや手当支給に加え、就業規則での制度整備や労働時間の管理体制が助成対象として明確に位置づけられました。
また、支給額についても見直しが行われ、手当・賃金アップなど複数の改善策を同時に実施することで上限額の適用が可能となるよう調整されました。
制度の実効性を高める観点から、単なる手当支給に留まらず、構造的な処遇改善策として活用されることが期待されています。
短時間労働者労働時間延長コースの独立化と加算制度の導入
これまで選択的適用拡大導入時処遇改善コースの一部に含まれていた短時間労働者の労働時間延長に関する支援が、令和7年度からは新たに独立したコースとして創設されました。
「短時間労働者労働時間延長コース」では、所定労働時間が週20時間未満の労働者に対して、20時間以上への延長を行った場合の処遇改善を評価し、助成金が支給されます。
さらに、労働者の継続雇用期間や企業の取り組み体制に応じた加算制度も導入され、実績に応じた柔軟な支援が可能となっています。
新コースはより具体的な制度運用が求められるため、申請予定の企業は詳細要領の確認と早期準備が重要です。
キャリアアップ助成金を活用するメリット
制度を適切に活用することで、人件費の抑制や従業員の定着、職場環境の改善といった複数の経営メリットが得られます。具体的な利点を確認しましょう。
制度に基づき助成金を受給できる
キャリアアップ助成金は、厚生労働省の制度に基づき、一定の条件を満たすことで国から支給される公的な支援です。
要件を確認し、事前に計画書を提出した上で、対象となる取組(正社員転換や賃金規定の改定など)を行えば、返済不要の助成金を受け取ることができます。
制度は年度ごとに見直されますが、令和7年度も複数のコースが継続され、企業の多様な人材戦略に対応できる構成となっています。
事業規模に関わらず申請できるため、特に中小企業にとっては人件費負担の軽減や制度整備の後押しとして有用な支援策といえます。
非正規雇用からの人材定着を促進できる
助成金を活用して非正規雇用労働者の正社員化や待遇改善を行うことで、人材の定着率を高める効果が期待できます。
特に長期間にわたり有期契約を繰り返している労働者に対して、正社員登用の道を提示することは、企業への信頼やロイヤルティの向上に寄与します。
また、非正規から正社員に転換するプロセスを制度化することで、社内におけるキャリアパスの明確化にもつながります。
定着した人材が中核人材として育つことで、採用コストの削減や業務効率の向上も見込まれるでしょう。
処遇改善による職場のモチベーション向上
キャリアアップ助成金を活用して賃金規定の見直しや賞与制度の導入などを行うことで、従業員全体のモチベーションが向上します。
待遇改善は単なる給与の引き上げだけでなく、「公平な評価」「昇給の仕組み」「正社員との格差是正」など、働きがいのある環境づくりにつながります。
また、制度を明文化して就業規則に反映させることにより、透明性と納得感が高まるため、従業員のエンゲージメント向上にも貢献します。
人件費負担を抑えて組織改革を実現できる
非正規雇用からの正社員転換や処遇改善には、一定のコストがかかりますが、キャリアアップ助成金を活用することでその負担を軽減しながら制度改革を進めることが可能です。
たとえば、賃金の3%以上引き上げを実施しても、対象人数に応じて助成金が支給されるため、実質的な人件費の上昇を抑えることができます。
また、就業規則や評価制度の整備といった、企業の中長期的な組織基盤の強化にも繋がり、コスト以上の経営効果をもたらす場合もあります。
キャリアアップ助成金を申請できる事業主の基本条件
助成金の申請には、雇用保険への加入や法令遵守など、事業主側に一定の条件が求められます。申請の前提となる基準を正確に把握しておきましょう。
雇用保険適用事業所であるか
キャリアアップ助成金は雇用保険の二事業を財源としており、雇用保険適用事業所であることが申請の前提条件となります。
つまり、労働者を雇用し、かつ法令に基づき雇用保険への加入手続きを行っている事業所でなければ、制度を利用することはできません。
申請時には、被保険者資格取得届や雇用保険被保険者台帳などを通じて、対象労働者の雇用保険加入が確認されます。
特に新設事業所や短時間勤務者の取り扱いには注意が必要です。制度を活用したい場合は、まず自社の雇用保険適用状況を確認し、未整備であれば速やかに手続きを進めましょう。
キャリアアップ管理者の選任条件を満たしているか
助成金の計画実行と進行管理を行うために、事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を選任する必要があります。
この管理者は、キャリアアップ計画書の作成・提出を含む一連の業務を担う責任者であり、社内での制度運用の中心的な役割を果たします。
労働局に提出する計画書には、この管理者の氏名や役職を記載する欄が設けられており、選任が行われていない場合、計画書自体が受理されない可能性もあります。
一般的には人事労務部門の責任者が選任されることが多く、実務経験や社内調整能力が問われるポジションとなります。
労働関係法令を遵守しているか
キャリアアップ助成金の支給対象となるには、労働基準法、雇用保険法、最低賃金法などの労働関係法令を遵守していることが大前提です。
過去に法令違反による是正勧告や指導を受けている場合、申請が認められないことがあります。また、労働条件通知書の未交付、未払残業代、違法な契約更新など、日常的な雇用管理における不備も審査の対象となります。
とくにキャリアアップ助成金は、正社員化や処遇改善を支援する制度であるため、その前提となる適正な雇用管理が整っているかどうかが厳しく見られます。
申請にあたっては、社内の労務体制を今一度点検しておくことが重要です。
キャリアアップ助成金の支給額に影響する企業規模の判定基準
キャリアアップ助成金の支給額は、企業の規模区分によって異なり、中小企業と大企業でそれぞれ設定された金額が適用されます。
一般的に中小企業の方が支給額が高く設定されており、これは制度の趣旨として、限られた経営資源の中で人材確保や処遇改善に取り組む中小事業者をより重点的に支援するためです。
中小企業の判定基準は、業種ごとに「資本金または出資の総額」および「常時雇用する労働者数」によって定められており、たとえば製造業であれば資本金3億円以下または常時雇用300人以下が目安となります。
支給額に関わる要素であるため、申請時には必ず企業規模の区分が確認され、適用区分に応じた助成額が審査されます。
キャリアアップ助成金の申請手順
申請は、計画書提出から制度整備、取組実施、申請書類提出まで段階を踏んで進めます。各ステップでの留意点を把握し、スムーズな申請に備えましょう。
事前準備として必要な体制整備と制度確認
申請を進めるには、まず助成金の対象となるコースや要件を正しく理解し、自社が満たしているかを確認する必要があります。
そのうえで、転換制度や賃金改定制度を新設・改定する場合には、就業規則の見直しや労使協議などを含めた体制整備が求められます。
また、キャリアアップ管理者を選任し、社内に制度運用の体制を構築しておくことも重要です。
取り組みに着手する前に、対象となる労働者の雇用形態や労働条件を整理し、どのコースで申請するのが最も適しているかを判断しましょう。
キャリアアップ計画書の作成と労働局への提出
キャリアアップ助成金では、事前に「キャリアアップ計画書」の作成と提出が必須です。
この計画書には、取り組み内容、実施時期、対象者の人数、担当管理者などの情報を記載し、事業所管轄の労働局長宛に提出します。
計画書は、助成対象の取り組みを開始する前日までに提出し、受理されていなければ申請ができません。また、計画書提出時には、労働者代表の意見を記載した「意見書」の添付も必要です。
計画書の内容と実施内容にずれが生じると支給が受けられない可能性もあるため、記載事項を正確に作成することが求められます。
就業規則や賃金規定など制度面の整備
対象となる処遇改善を制度として適用するには、就業規則や賃金規定などの社内文書を整備し、明文化する必要があります。
たとえば正社員化コースの場合は、正社員転換の基準や手続きを定めた規程を就業規則に盛り込む必要がありますし、賃金規定等改定コースでは、改定後の賃金テーブルを反映した規定の作成が求められます。
また、共通化コースや制度導入コースでは、新たに賞与・退職金に関する記載も必要です。
これらの規程は、労働基準監督署への届出が必要なケースもあるため、労務管理上の対応を漏れなく行うことが重要です。
対象者への処遇改善の実施(正社員化・賃上げなど)
計画書に基づき、対象となる非正規雇用労働者に対して、実際に処遇改善を実施します。
具体的には、有期雇用から正社員への転換、基本給の3%以上の引き上げ、賞与制度の適用などが該当します。
実施にあたっては、労働条件通知書や雇用契約書を正確に作成し、制度改定後の労働条件を明確に提示することが必要です。
また、改定した内容がすぐに反映されていることが、後の支給審査でも確認されるため、実施日以降の賃金台帳や出勤簿などの証拠書類を確実に残しておく必要があります。
継続雇用期間の満了と実績の記録
多くのコースでは、処遇改善後の一定期間の継続雇用が要件となっており、その期間を経過して初めて支給申請が可能になります。
たとえば正社員化コースでは、転換後6か月間の継続雇用が必要で、その間の労働時間や賃金支払いなどの実績を記録しなければなりません。
賃金台帳、出勤簿、労働契約書の内容が整合しているかが重要な審査ポイントとなります。
記録に不備があると支給要件を満たさないと判断される可能性があるため、日々の実績管理にも注意を払う必要があります。
支給申請書類の準備と提出
継続雇用期間が満了したら、キャリアアップ助成金の支給申請を行います。
申請には、対象者の雇用状況を証明する書類、就業規則や賃金台帳、労働契約書などの関係書類を揃え、所定の様式で作成した申請書とともに管轄の労働局または助成金センターへ提出します。
申請方法は原則として書面提出ですが、一部は電子申請にも対応しています。
提出期限は取組実施後2か月以内などと定められており、期限を過ぎると受理されないため、日程管理を徹底しましょう。不備があった場合は差戻しのリスクがあるため、事前の確認が不可欠です。
審査完了後の支給決定と助成金の受取
提出された申請書類は、労働局で審査が行われ、内容に不備や要件未達がないことが確認されれば支給決定通知が発行されます。
支給決定後、事業主が指定した口座に助成金が振り込まれますが、審査から支給までには数週間から数ヶ月程度の期間がかかることもあります。
また、審査の過程で追加書類の提出や補足説明を求められることもあるため、柔軟な対応が求められます。
助成金の支給を受けた後も、対象労働者の雇用継続や制度運用の実態が求められる場合があるため、アフター対応にも注意を払いましょう。
キャリアアップ助成金の申請・審査で不支給を防ぐためのポイント
助成金が不支給となる主な原因は、手続きや書類の不備です。申請前・申請中・支給後それぞれのフェーズで注意すべきポイントを解説します。
提出ミスで申請できなくなるケースと対処法
助成金の申請において、そもそも「申請できない」状態になる最も多い原因は、計画書の未提出や期限超過による形式的な不備です。
取り組みを実施した後に申請を思い立っても、事前の手続きがなければ対象になりません。提出期限や順序を厳守することで、制度の入口で排除されるリスクを回避できます。
キャリアアップ計画書は必ず期限内に提出する
助成金の根幹となるのがキャリアアップ計画書です。これを所定の様式で、取り組みを実施する前日までに労働局へ提出する必要があります。
実施後に提出した場合、いかなる理由でも助成対象外と判断されます。提出日と取組実施日の整合性を確認し、余裕を持って手続きを行いましょう。
計画書と実施内容にズレがないよう注意する
計画書に記載した内容と、実際に行った取組内容にズレがある場合、支給対象外になることがあります。たとえば、対象者の人数や処遇改善の内容が計画と異なる場合が該当します。
記載内容と実施内容が一致するよう、計画段階から具体的かつ実現可能な内容で策定することが重要です。
対象者の雇用期間や経歴を事前にチェックする
正社員化コースでは、転換前の雇用形態や在籍期間、過去の正社員歴が支給要件に関係します。
重点支援対象者かどうかで支給額も変わるため、対象者の雇用履歴や正社員経験を事前に確認し、適切な区分で申請する必要があります。
ヒアリングや過去の契約書確認を怠らないことが大切です。
書類の不備による審査落ちを防ぐポイント
申請書類の整備不備は、審査での不支給要因の中でも特に多いものです。
様式の誤りや記載漏れはもちろん、証拠書類同士の整合性が取れていない場合も、審査に通らない原因になります。
取り組みの実施を裏付ける書類は、日頃から丁寧に準備・管理することが肝要です。
雇用契約書・就業規則・賃金台帳の整合性をそろえる
審査では、複数の書類を突き合わせて取組の事実確認が行われます。
たとえば賃金アップの要件を満たすためには、賃金台帳と就業規則、雇用契約書の記載内容が一致している必要があります。
記載内容に食い違いがないよう、各文書の整備・管理を徹底しましょう。
対象外手当を除外し、賃金アップ要件を正しく満たす
賃金規定等改定コースなどでは、基本給の3%以上アップが条件ですが、対象に含まれない手当(通勤手当や一時金など)を含めて計算してしまうケースがあります。
制度上の「基本給」の定義を確認し、計算根拠が明確になるよう資料を整理しましょう。
離職・異動・解雇のタイミングを管理して対象外を回避する
助成対象となる労働者が、継続雇用期間中に離職・異動・解雇などにより条件を満たさなくなるケースも注意が必要です。
とくに申請対象者が、申請時点まで在籍していないと対象外となるコースもあるため、対象者の雇用状況を正確に把握し、スケジュールを逆算して運用しましょう。
実績報告書作成と支給決定後の対応で気をつけるポイント
申請が完了した後も、実績報告や追加資料の提出が必要になる場合があります。
また、支給決定後に企業が要件違反となるような行動を取った場合、支給取り消しや返還を求められる可能性もあります。
受給後の対応にも丁寧な管理が求められます。
実績報告書は漏れなく正確に記載する
支給決定に必要な実績報告書では、取組の実施内容や対象者の勤務状況、支給内容などを正確に記載する必要があります。
誤記や記載漏れがあると審査が長引いたり、申請が差戻されたりする恐れがあります。記入要領をよく読み、抜け漏れのないよう提出しましょう。
支給除外対象の有無を確認し、証拠資料を保存する
支給除外とされる対象者が含まれていないかの確認も重要です。たとえば雇用期間が短すぎる者や、正社員登用が予定されていた者などは対象外となる可能性があります。
また、助成対象者であることを証明できるよう、契約書・出勤簿・賃金台帳などの証拠資料を保存しておく必要があります。
キャリアアップ助成金に関するよくある質問
キャリアアップ助成金とは簡単にいうとどんな制度で誰がもらえるんですか?
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用の従業員を正社員に転換したり、賃金や待遇を改善したりする企業に対して、国が支給する返済不要の助成制度です。
対象となるのは、雇用保険適用事業所であり、かつ所定の取り組みを実施した法人または個人事業主です。
受給には事前の計画提出や、制度整備、継続雇用の実績が必要で、労働者本人ではなく事業主が申請・受給します。
制度の目的は、非正規労働者のキャリアアップ促進と、企業の人材定着支援にあります。
キャリアアップ助成金の審査は厳しいって本当ですか?
助成金の審査では、形式的な不備や要件未達があると申請が却下される可能性があるため、一定の厳しさはあります。
特に「計画書の提出忘れ」や「書類の整合性不足」が原因で不支給となるケースは少なくありません。
ただし、制度内容を正しく理解し、必要書類を整備しながら丁寧に進めれば、申請自体は十分に可能です。
初めての申請で不安がある場合は、ハローワークや社労士に相談することで、審査対策を事前に講じることができます。
キャリアアップ助成金の正社員化コースにはどんな注意点がありますか?流れも教えてください。
正社員化コースでは、有期契約・無期契約・派遣社員を、就業規則に基づき正社員へ転換した場合に助成されます。
ただし、取り組み前に「キャリアアップ計画書」を提出することが必須です。
転換後には6か月以上の継続雇用や、3%以上の賃金アップ、賞与・退職金・昇給制度の適用など複数の要件を満たす必要があります。
支給対象外とならないためには、事前準備・対象者の選定・書類整備の3点を確実に行うことが重要です。
3年以内の正社員化はキャリアアップ助成金で不利になりますか?
原則として、キャリアアップ助成金では「当初から正社員登用を予定していた労働者」は対象外となりますが、3年以内の正社員化が必ずしも不利になるわけではありません。
重要なのは、採用時の契約内容や職歴、正社員経験の有無です。重点支援対象者の要件に該当すれば、むしろ支給額が増加することもあります。
ただし、雇用履歴や正社員登用の予定があったかどうかが判断材料となるため、採用時の書面記録をしっかり残しておくことが大切です。
正社員化コースの第2期支給とは何ですか?
正社員化コースでは、一定の条件を満たす場合、2段階での助成金支給が行われます。
第1期支給は転換後6か月間の継続雇用と支給要件の充足が条件であり、第2期支給はその後さらに6か月間の継続雇用が認められた場合に支給される追加分です。
主に重点支援対象者に対して適用され、中小企業であれば最大80万円、大企業で最大60万円の合計が支給される仕組みです。
2期制を活用することで、長期雇用を促進し、より安定した雇用環境の整備が図られます。
キャリアアップ助成金の申請期限はいつまでか教えてください。
申請期限は、原則として「取組完了日(例:転換日や規定適用日)から2か月以内」と定められています。
具体的な日付はコースによって異なるため、必ず最新の支給要領を確認してください。
計画書の提出は取組開始前日まで、支給申請は完了後2か月以内という流れを守る必要があります。
提出が遅れると、要件を満たしていても不支給となるため、取り組みの実施日から逆算して、余裕をもってスケジュールを立てることが大切です。
パートでもキャリアアップ助成金の対象になりますか?
はい、一定の要件を満たせば、パートタイム労働者もキャリアアップ助成金の対象になります。
たとえば、パートから正社員への転換、または基本給の3%以上の引き上げ、賞与制度の導入などの取組が該当します。
ただし、適用にあたっては労働時間や契約内容などに応じて正確な区分を行う必要があります。
パート労働者も雇用保険に加入しており、制度的な処遇改善を行う場合には、他の非正規社員と同様に助成対象として扱われます。
まとめ
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善に取り組む企業に対し、返済不要の助成金を支給する制度です。
令和7年度は重点支援対象者の明確化や新コースの創設など、制度内容がより実効性の高いものへと進化しています。
支給を受けるには、計画書の提出、制度の整備、対象者の適正な選定、そして実施後の継続雇用や書類管理など、各ステップでの丁寧な対応が求められます。
自社の雇用形態や制度に合ったコースを選び、キャリアアップ助成金を有効活用することで、人材の定着・戦力化と経営の安定化を両立させることが可能です。